言葉が言葉を超えてアートになる ラッパーmaco marets

maco marets をご存知だろうか?
1995年・福岡県生まれ、現在は都内在住のラッパーである。

ロックしか聴かない知人にmaco maretsを聴かせたところ

「これってHIPHOP!?」

「なんかいい感じ」

との感想が返ってきた。

知人は何気なく言っただろうけど、maco maretsの魅力はこれだ!」と思った。
ラッパーは多くの言葉でリスナーの感情を動かすが、maco maretsは言葉にできない感覚を刺激する。この記事では、そんな彼の魅力に迫る。

まずは11月7日に発売された2年ぶりの2ndアルバム『KINŌ(キノオ)』より、キャッチなナンバーを聴いて欲しい。肌ざわりの優しいのラップはHIPHOPのイメージを変えるだろう。そしてこう思うはず。

「何かいい感じ」と。

 


Hum!

(アルバム『KINŌ』 2曲目に収録)

 

朝の澄んだ空気感が感じられる曲。

『hum!』とはスペルを見るとハミングのhum。でもMVを見るとサンドイッチにはさむハムともかかっていて、誰かを想って料理を作る愛情や、休日のワクワク感が一言で表現されていて上手い。

心軽やかになるハミング。休日の前日は夜更かしぜず、早起きしてこの空気感を味わいたくなる。

 


maco maretsの魅力とは …

 

ラップは、他のジャンルと比べて歌詞の量が圧倒的に多い。聴くときには言葉を読み取ろうと脳が無意識に回転する。しかし、maco maretsは言葉の響きが心地よすぎて、感覚のままとどめたくなる。意味を伝える宿命を背負った言葉たちが、響きの美しさ負けてアートになっていく。

言葉が言葉を超えていく。

こんなラップができるのはmaco maretsしか私は知らない。
感覚で感じるがゆえに、曲の空気感や香りまで伝わってくる。時には、自分ですら憶えていない遠い記憶を呼び起こす。

その中で耳に残るフレーズの数々。気がつけば一緒に口ずさむ。聴けばきくほど歌えるフレーズが増えて、この曲はこんなことを言っていたのかと次第にわかってくるのが面白い。

 

アルバム『KINŌ(キノオ)』に収録された曲をさらに3曲紹介するので、彼の世界観を堪能してほしい。

 


Amazing Season

  (アルバム『KINŌ』 4曲目に収録)

 

ラッパーでありながら「言葉ならばどこかへ消えてしまった」という歌詞は、maco maretsならではの世界観。「誰もいない ないないない」と聴くたびに自分の輪郭が曖昧になっていく。漂うトラックに、レトロなSF音がかすかに残った記憶を刺激し、あの時の匂いを呼び起こす。

「何にもない 何にもない」と歌ったムッシュかまやつの名曲『やつらの足音のバラード』を思い出す。

 


Summerluck

(アルバム『KINŌ』 9曲目に収録)

 

 

ライオンは、暑い日中のほとんどは木陰で過ごす。
気温が異常に上がった夏の日には、この曲を聴いて日没の待つのが自然だろう。

力なく鳴るダウナーなギター、気だるく言葉を吐くラップ。曲が進むにつれ音にディレイがかかりポストロックを思わせる響きになる。暑さで意識が遠のくように、曲の世界にはまっていく。

 

 


Click It, Freeze It

(アルバム『KINŌ』 5曲目に収録)

 

 

無機質に連打するハイハットの音は、時計の秒針が早く進むようなスピード感。優しく語りかけるラップスタイルは変わらない。でも音と言葉のギャップが聴いたことのない緊張感を生み出す。言葉を磨いたその先の世界が味わえる。

 

 


2ndアルバム『KINŌ』

(レビュー)
上記で紹介した4曲を含む全11曲収録されたアルバム『KINŌ』。前作に続きプロデュースは、Small Circle of Friends の詩人/ラッパー・東里起。1stアルバムのザラついた質感は影をひそめ、より透明度の高い洗練された音になっている。アコースティックギターやピアノの生楽器の響きはポストロックに通じ、シンセの響きはエレクトロニカに通じる。
HIPHOPを聴いているというより、時間とともに動く淡い水彩画を見ている感覚になる。特に朝に聴くのがオススメ。部屋の空気がさらに澄んでいくのが分かるだろう。

ジャケットもお洒落なので、音の出るインテリアとしても機能しそう。ぜひmaco maretsの世界に手に触れて欲しい。

 

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01 morning calls
02 Hum!
03 Deadbody
04 Amazing Season
05 Click It, Freeze It
06 Sparkle
07 blank form
08 Eyepatch
09 Summerluck
10 Poodles
11 Who You Are
(ft. Misa Yoneyama)

 


1stアルバム『Orang.Pendek』

(レビュー)
2016年に発売された1stアルバム。時にクールに、時にあたたかく語りかけるラップスタイルはこの時すでに確立されている。発表時された時、maco maretsは若干20才。年齢にそぐわない落ち着きと独特の世界観に驚かされた。
喧騒の中の静寂、静寂の中の情熱が感じられる楽曲たちは、JAZZYでHIPHOP色が強い。ザラついた音色、弾むリズムにスクラッチなど、2ndアルバムとは違ったmaco maretsの魅力が堪能できる。

 

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01 Room 203
02 S.N.S
03 Leakage
04 Crunchy Leaves
05 sutekina
06 Peppermint
07 under the bed
08 XL
09 Daybreak
10 be home

 


最後に、1stアルバム『Orang.Pendek』から1曲を紹介したい。

11月になるとよく耳にするのが、「言ってる間に年末やね」というセリフ。どこか気ぜわしのは、みんな秋の短さを知っているから。時計の音がいつもより大きく聴こえる。「チクタクチクタク」。ギターがかき鳴らされるたびに、秋が色濃くなっていく。そんな季節のBGM。

Crunchy Leaves

(アルバム『Orang.Pendek』 4曲目に収録)

 

 

 

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