ドキュメント of 独白Remix 〜94人のラッパーが放った3720小節〜(3/3)

|中編までのあらすじ|


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29日深夜、ふだん鳴らない私の電話が鳴った。

声の主は DUSTY-l 
愛知県豊川のラッパーだ。

 

彼は「独白」という曲を5月19日にリリースしていた。HOOK(サビ)がなく飾り気のない。その分、むき出しの想いがつづられ、ラップだけで40小節を一気に駆け抜ける。そんな曲だった。

 

 

この曲が配信されると、制作チームの予想を超えるリアクションがあった。それに1番触発されたのは、この曲のトラックメーカーである Pay a.k.a Wildpit¢h だった。

 

“実力があるにも関わらず、リスナーに届いていないラッパーを掘り起こす”。

 

そんな目的で始まった独白Remix企画(賞金10万円、6月限定)は、全国のラッパーの心をたぎらせた。

 

話を元に戻そう。私への電話の目的は、Remix企画で多数の曲がエントリーされたので、それらを一堂にアーカイブできる記事を作って欲しいとの依頼だった。記事の構成上、どれぐらいの曲がエントリーされる見込みか尋ねると、こんな答えが返ってきた。

 

「応募はおそらく60曲ぐらいになると思います」

 

この予想は大きく外れることとなる。6月の最初の3週間で30曲、最終週の5日間で31曲もアップされたのだ。話はここで終わりではない。

 

締め切りの時までの残り48時間。秒針の音が聞こえ始めたこの期間に、駆け込みでなんと33曲もアップされたのだ!90分に1曲が生まれ、アルバムが2枚完成した計算になる。

 

Remixが公開される度に、コメント付きでリツイートしていた主催者 Pay a.k.a Wildpit¢h も、流れていくTwitterのタイムラインをさかのぼり曲数を確認することで精一杯だった。熱心なヘッズでさえも、この状況を正確に把握できた人はいないだろう。まさに異常事態だ。

 

熱情が熱狂へ。HIPHOPは少しイカれているぐらいで丁度いい。締め切り時間までにエントリーされたラッパーは総勢94人。94通りの「独白」が、合計3720小節つづられていた。

 


|Pay a.k.a Wildpit¢h インタビュー  〜燃え上がる48時間編〜

 

 

── 残り48時間を切り、怒涛の公開ラッシュが始まります。その時、どのような状況だったのでしょうか?

 

僕は最後の土日に撮影で東京に出ていたこともあり、ラスト48時間で公開された33曲はほぼリアルタイムに追えていない状態でした。

 

この状況はまさに“早すぎる音楽シーン”みたいだなというを印象を持ちました。こりゃどれだけいい作品が出ても、拡散に初速がつかなかったら埋もれるなと。SNSは便利な半面、残酷やなーと思いましたね。

 

── 私もチェックできませんでした。埋もれる作品が多い中でも、いくつかのRemixはちゃんと拡散されていました。影響力がある人の良い作品はちゃんと火が付くのもSNSの力ですね。

 

確かに空廻さんやJAKEさんの作品はしっかり広がってましたね。でもこの2人の作品が6月中旬に世に出ていたら、再生回数はもっと伸びてた気はします。数字が全てではないんですが、数字だけが現実を教えてくれるのですから。

こういうことが一ヶ月の間にわかることも、SNSのいいところだと僕も思います。

 

── 中篇で紹介した T.O.$さんのように、この企画を、というよりHIPHOPをさらに盛り上げようと挑発的なラップをしている人がいました。そんな熱が、最後の最後48時間で燃え広がったように感じます。

 

 

何人か“独白remixを出した人”に対するラインを盛り込んだ人がいました。みんなバチバチ感あって正直面白かったですね。コレコレ!アザス!って感じでした。

 

── かと思えば、このRemix企画に噛み付くような作品もいくつかあり、この企画の成功を権威のような物と解釈し反抗するのもHIPHOPらしいですね。

 

そうですね〜。僕が好きなHIPHOPはケツの穴がデカくて自由そのものなので、多種多様な作品が生まれるキッカケを作れたことは素直に誇らしく思います。

 

── そう言うPayさんもケツの穴が広いです。

 

ケツの穴が広い男が理想像です!笑

 

── 笑。それ以外に後編の見所はありますか?

 

インドネシアに住んでる方やポエトリーリーディングを行う方など、普段自分の音楽が届いてると想像もつかない、物理的な距離やジャンルの壁の先にいる人達の投稿がありました。まさに最後の大盛り上がりといった部分が見所なのではないでしょうか。

 


 

ということで、3部構成の最後となる【ドキュメント of 独白Remix 】の後編33曲をお届けします。Pay a.k.a Wildpit¢h 氏の書き下ろしコメントが各曲に付いています。ラッパーであり、ビートメーカーならではの視点で語ってくれました。1ヶ月間で薄まることなく、最後の最後まで気合の入った曲ばかりです。最初から一気に聴くもよし、徐々に聴くもよし、全国にこんなラッパーがいると知るだけでもよし。あなたにも熱が伝わるはずです。最後に重大な発表があるのでお見逃しなく!!

 


 

目次

 


62|tkc/ 独白Remix|

「見せたいんだ 俺式の証明」
と語るように、他の人のやってることや曲に影響されていないオリジナルなフローが今も耳に残ってます。

 

 


63|RING1【大阪】/ 独白Remix|

細かく散りばめられたライミングと聴き応えのある日本語表現が素敵な40小節です。
「ヤバイと言ってくれた奴らを嘘つきにしたくない」
というラインにこの人のラップに対する真摯な姿勢が現れているなと思いました。

 


64|MC松島【北海道】/ 独白Remix|

リラックスしながらも顎にくるタイプのパンチラインがドスドス飛んでくるすごい40小節です面白い言い回しや切り口に個性が出てて、映像のオチもふくめて好きな作品です。

 

 


65|higurashi【大阪】/ 独白Remix|

「量産品より一点物って事を知ってこそdigは始まる」
ってラインが僕にも思い出させてくれました。好きにやってる各地の才能がdiggerに掘り出されることを願ってます!

 

 


66|DUMMY【京都】/ 独白Remix|

このビートは、群れずに独りで言葉を溜め込み続けるソロマイクをしまう鞘です。
ひりついたフローと滾るエネルギーが詰まったラインを矢継ぎ早に繰り出す、抜き身の刀身のように研がれた40小節を是非聴いてください

 

 


67|クラリ.NET / 独白Remix|

自分に向けて吐く独白を重ねれば重ねるほど、その人の世界が形になっていきます。
「変わらないいつまでも無邪気な遺伝子」のラインで締めくくられるこの作品も、このMC独自の言葉が溢れた世界観に仕上がってました。

 

 


68|ライムGURU【インドネシア】/ 独白Remix|

インドネシアから広島訛りの独白remixが到着!
自分のビートが海外在住の方に届くなんていい時代だなと。日本語ラップ愛溢れるラインも光るオーセンティックで直球なリリックもよかったです。

 

 


69|イソムラコウキ【愛知】/ 独白Remix|

“思うがままにペンを走らせた”という表現がびったりはまる、燃えるような初期衝動を感じる40小節!
「石ころからダイヤ磨きかかった」
というラインを証明してくれることを楽しみにしてます。

 

 


70|ナツホタル【兵庫】/ 独白Remix|

僕とDUSTY-Iさんの独白はどちらも自分の思いを吐き出すのみの曲ですが、“閉じ込めた己の戸をこじ開ける”きっかけになっているのであれば本当に嬉しいことです。誰かからの期待や同調圧力を跳ね飛ばして、自分の足で歩く決意が込められたRemixでした!

 

 


71|egavvo(SNOW SMILE)/ 独白Remix|

92曲の中でも異彩を放つ独白Remix “ -Dirty ver.- ”は間違いなくこの作品です。
ニコニコ笑みを浮かべながら吐くラインは陽の光が当たらない側の現実をえぐりまくってます。でも僕この人の歌詞メッチャ好きなんです。Keap it real なスタンスが刺さるんですよ。

 

 


72|まゆり/ 独白Remix|

“40小節に孤独を詰め込み自分との対話を始める”ことによって紡がれた40小節はストイック。表現という行為に対してギラつくmindは性別関係なくかっこいいですね!

 

 


73|SHEART【千葉】/ 独白Remix|

音楽一本で食いつなぐ人に僕は特にリスペクトを送ります。「目醒ましな」って言われてもばっちり醒めてるからこの現実で勝負してるって話ですから。そんな人が書いてくれた独白はまさに「生きてる言葉」だと思います。

 

 


74|REVERSICE / 独白Remix|

「俺は俺を探すためにゆく day by day」
のラインが示す通り、日々の中で自分に向き合って言葉を紡ぐ「for life」の精神は世代を超えて受け継がれてるなと。DUSTY-Iさんの地元豊川もそれは同じことですね。

 

 


75|ILL SWAG GAGA【大阪】/ 独白Remix|

1番暴れ倒してる独白Remixでした。
40小節どころかイントロアウトロすら消し去るラップ狂がspitした作品は間違いなく「SWAG」!
こんなんありかよって思いましたね。大いにありですね!

 

 


76|JAKE【鳥取】/ 独白Remix|

この作品に余計なコメントは不要で無粋です。聴けばわかります。伝わります。

 

 


77|空廻/ 独白Remix|

個人的にかなりイチオシしたい独白Remixです。
予想できないライミングで構成されたリリック、独特な視点で描かれたメロディ。そして一度聴けば忘れられない狂気のライン含めてブチかまされましたね…

 

 


78|イサギ/ 独白Remix|

92曲の中で一番僕らに中指を立ててきたRemixです!アンサーだと勝手に受け取ってます。他の方と全くかぶらない声もフローもキレがあって、「おおー」となりました。

が、僕の歌詞を引用している部分は“内容を理解できてない的外れなラップ”でがっかりしましたね。

「いぶし銀なラップが聴きたい飢えた耳が俺らのtarget」
と自分で作曲したビートでラップしてる僕に、
「大衆に歩み寄れるものこそが本物のミュージシャンじゃねえのか」
ってRemixで言われても…。

 

https://twitter.com/isareco62/status/1145258964994555909?s=19

 


79|Itaq / 独白Remix|

いやー痛快なラインが沢山あるRemixでした!
「DUSTY-Iが居なかったら大半は何もしないでくすぶっていたいたはず」
なんて歌詞には笑いましたね!煽(あお)られたと思った人は、曲とクオリティと実績でアンサーしましょう。

 

 


80|tae【静岡】/ 独白Remix|

このRemixの映像のように、僕もよく車の運転中に色々考えます。僕らが生きる毎日には、楽しいことや喜びがある一方で悔しさや憤り、不快な事も溢れているなと。だからこそこういう人間らしい作品が産まれていくんだと思いますね。

 

 


81|9ball【大阪】/ 独白Remix|

めちゃめちゃ気持ちいいフローで切れ味抜群のラインが魅力的な独白Remixをいただきました。乗せ方と間の取り方に感じる美学と、シンプルな言葉選びで伝える独自の表現はただただクール。絶対ライブもかっこいいんだろうなと思いました。

 

 


82|EAGLEYE【兵庫】/ 独白Remix|

年齢に関係なく俺らはかっこいい音楽に大事なことを気付かされるんです。
「痛みも愛せばみえるものがある」
「否定しかできない奴を否定する」
力強く鷲掴みにいくstanceと彼のsmellを感じてください!

 

 


83|QuriK【岡山】/ 独白Remix|

flowに対する感情表現が多彩でかっこいいRemixをいただきました。
「kendrickよりやばい親父のアドバイス」
ってラインにはグラスを高く掲げたっす!

 

 


84|彩【愛知】/ 独白Remix|

投稿文ではちょい自信なさげなコメントをされてましたが、
「音楽に正解を定めた時点で音楽は絶対に限界を迎える」
ってリリック超良くないですか?
もちろん上手い下手はあると思いますけど、僕は確信を突いてるラップが一番好きです。

 

 


85|LASU ZINSEII【大阪】/ 独白Remix|

独白のビートはエモくシャウトするフローがはまると自分でも思っているので、こういう落ち着いたテンションでかっこよくラップされるとマジで上がるんですよ。
「楽と楽しいは裏表に」
ってラインも好きな人多いんじゃないでしょうか。

 

 


86|那由多【沖縄】/ 独白Remix|

宮古島の高校生からもRemixをいただきました!
「センスある千の言葉の先端にダイナマイト 発信源はここ 人生を変えたマイク」
こんなかっこいいリリック、僕が高校生の時には絶対かけなかったです。将来が楽しみです。

 

 


87|大樹 a.k.a 考え中。【京都】/ 独白Remix|

ライミング以外にもラップに重要なことは沢山あって、この作品では型にはまってない小節のまたぎ方がグッドグルーヴが個人的に聴きどころっす。
「物語って奴は遠回りで良い」
ってラインメッチャ好きですね。

 

 


88|pLRayer【大阪】/ 独白Remix|

直球な言葉選びと軽やかなflow、抜群のタイミングで刺しにくるパンチライン、全てが高い完成度でまとまった見事なRemixで僕は「シブさ」を感じました。
“渋くしようとしてない”スタンスがめちゃ渋いと思うんですよね。

 

 


89|KAKKY【兵庫】/ 独白RMX|

今回のRemixでも明らかに他の作品と空気感が違うのが開始数小節でわかりました。
カテゴリ分けできない表現こそがオリジナルだと証明している40小節です。かっこいいですよ。

 

https://twitter.com/s_amura1/status/1145345012877557760?s=19

 


90|里芋【京都】/ 独白Remix|

たまに「HIPHOPは若者の文化」って言うてる人がいます。間違ってないんでしょうけど同意は出来ないすよね。こういう味のある作品を無視してるので。楽しいからやるもんでしょ、ラップって。そう感じさせてくれるRemixでした。

 

https://twitter.com/satoimo____/status/1145336724748263424?s=19

 


91|BETTY【大阪】/ 独白Remix|

「まぁこんな作品があってもいいんじゃないすかね!」以外にコメントないです笑

 

 


92|竜【愛知】/ 独白Remix|

ラップって個性が出てれば出てるほど「ええやん…!」ってなりません?途中で飲みにいこやとか言うてまうところにこの人らしさメッチャでてると思いますし、肩肘張ってないのが逆に新鮮でテンション上がりました。

 

 


93|廣川ちあき / 独白Remix|

ラップソングのRemixとして広がったこの企画ですが、
ポエトリーリーディングとして作品をつくってれた方がいました。別の界隈にまで届いて嬉しいです!
「自分がいつから生きていたか知らないくせに今ここにいる」
と口にする、この方表現も間違いなく「独白」だと僕は思います。

 

 


94|KZ【大阪】/ 独白Remix|

独白Remixのトリを飾る宣誓にやられた数日後、しっかり有言実行してくれた作品です。
「ヤリマンのマンゲみたく処理されてない曲で自慢げ 出ちまうゲロ」
のライムとラインは、今回のRemixで一番お下品で一番意義のあるラインだと個人的には思ってます笑
他の部分?めちゃいいに決まってますよ。聴いたらわかるでしょ。

 

 


|後編を振り返って|

引き続き Pay a.k.a Wildpit¢h インタビュー

 

── 改めてこの短期間に、33曲のエントリーがあったなんて信じられないですね。これほどクオリティーが高いと、嬉しい反面、審査するのが難しく感じられたのではないでしょうか?

 

そうですね、そもそも本質的には上も下もない「作品」にあえて順列を付ける以上、そのプレッシャーはとても大きかったです。しかしそこは企画を打ち出した側として、きっちり「選んだ理由が説明できる」作品を選ばせてもらいました。

特に僕とDUSTY-Iさんとの間でよく話しましたね。

 

── おぉ、と言うことはもう10万円を手にするラッパーは決まっているのですね!正直、全く予想がつかないです。

 

そうですね。この記事をドラム師匠さんと書いてる14日23時の時点で、僕らが選ぶ作品は決まっています。真剣に僕らも選ばせて貰いました。

 

 

発表は7月15日20時、私のTwitterで行います。
楽しみにしててください!⬇︎

 

 

 

主催者 Pay a.k.a Wildpit¢h よりお詫びと訂正

今回、運営にあたる企画者の自分の管理のずさんさにより、2人の表記抜けがみつかりました。これは全て全体のリストを作成する役割とチェックを担当していたPay個人の責任であります。誠に申し訳ございませんでした。
7月15日15時時点で表記抜けしていた方のアーカイブへの追記はできていますが、悪目立ちしてしまうことを避けるためここではお名前を伏せさせていただきます。

尚、今回の表記抜けは審査の結果に影響しないことをここに誓います。

 

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