「ゴゴゴゴー」
これは「ジョジョの奇妙な冒険」の吹き出しではない。
HIPHOPユニット潜伏期間 の『眠らない』という曲のMVは、吹きつける風の音で始まる。
最近のMVが2〜3分と短くなっている中、曲が始まるまで1分間、こんなシーンが続く。
強い風を受けながら歩く男性
歯を食いしばっているとも、笑っているとも受けとれる表情
カットインするライブ映像
シャッターに描かれるグラフィティ
風の音から変化するスプレー音
曲が始まると同時に開く仮設トイレの扉
ズボン半開きで出てくる男性
音が流れてないにも関わらず、冒頭シーンだけで伝わってくるのは、暮らしの厳しさ、生きるたくましさ、そしてHIPHOPらしさだ。
このシーンがあるがゆえに、曲中でのMC2人の独特な動きが意味深く思えてくる。
「止まらない笑い 遊び方。真夜中自由気まま 後ろ姿」
たとえ暮らしが厳しくてもユーモアで笑い飛ばそうぜ!
そんなメッセージを全身で表現しているように思えてならないのだ。
人気ラッパー 唾奇 もTwitterでこう絶賛している。
https://twitter.com/tubaki_0804/status/1098155676784705536
潜伏期間は、神奈川・茅ヶ崎を拠点に活動し、愛嬌のある SHU Z とトラックメイクも行うco∞ の2MCからなるユニット。
そして彼らの良さを最大限に引き出したのは、映像ディレクター・守屋 雄介だ。
冒頭のシーンにはどんな狙いがあったのか、曲中の気になるあのシーンやこのシーンはどこまでが演出で、どこまでがアドリブなのか?
守屋 雄介氏に気になる事を全部きいてみた!
副音声を聴いているようなイメージで読み進めて欲しい。
HIPHOP好きだけでなく、映像を志す人にも役に立つ内容となっている。
そしてこの記事を読み終えた後には、潜伏期間だけでなく、このMVが愛おしくてたまらなくなる事を約束する。
4分22秒のMVには、こんなドラマが秘められていた。
📽️『眠らない』徹底解説 スタート!
| 潜伏期間 / 眠らない |
( Prod. by co∞ )
守屋 雄介 インタビュー
──まずプロフィールを教えて下さい。
神奈川県茅ケ崎市生まれです。
大学では劇団に所属して、舞台映像やグラフィックを制作していました。現在は映像の仕事をしつつ、ミュージックビデオやショートアニメーションを制作しています。
最初に撮影したテイクはお蔵入り
──『眠らない』はどういうコンセプトで撮られたのですか?
私はHIPHOPのカッコ良さは、ただカッコいいだけじゃダメだ!と思っています。
なのでユーモアがありつつ、少し違和感を感じる。それでいてカッコいいものを目指しました。
実は、公開されたMVは2テイク目で、最初に撮影したテイクはお蔵入りになったんです。
──えっ、そうなんですか!?なぜ不採用になったのでしょう?
編集して完成したものを本人たちに見せたところ、
「やり過ぎかも?」ということになりまして。
──そう聞くと、そのテイクも見たくなりますね(笑)
その後、SHU Zが「グラフィティをやっている AVR というグループに、職場のシャッターをペイントしてもらって、工場の中を一周するとグラフィティが出来上がってるみたいなのどう?」と提案があり、撮影してみました。
──冒頭のシーンに出てくる工場ですね。
編集したところ面白いものになったのですが、MVにしては時間が長すぎました。
あらかじめ計算しておけ!という話なのですが・・・。
それで悩んでいた時に、以前撮影した2人のLIVE映像を見たんです。やっぱり2人はLIVEが一番輝いているなと思いました。
そこで、工場で撮った映像、LIVE映像、海で撮った映像をてんこ盛りにMIXする方向性を探り、次第に形になっていきました。
前夜の記憶が残っているような感じにしたい
──冒頭のシーン1分間は、映像だけで曲のコンセプトを伝えていると思いました。最初の1分があるおかげで、曲の意味合いが深く感じられます。
全ての意味を冒頭に込めようとした訳ではなかったのです。
最終的にそういう成分が出ていたなら、それを感じてもらえたのなら嬉しい限りです!
ラフの編集の段階ではもっとシンプルでした。
しかし、co∞が「もうちょい前夜の記憶が残っているような感じにしたい」とワンプッシュしてくれたので、あのような冒頭シーンにたどり着いたような気がします
編集して気づくこともあるのですが、冒頭のシーンでco∞が友人の落ちたキャップを拾って手渡す部分に色々なものを感じました。
──曲中でも気になるシーンがいくつもあります。まずCO∞さんの棒を使ったアクションが決まっていますね。
CO∞の棒術は撮影当日に判明した謎の特技です。すごく上手くてびっくりしました!
──当日判明したのですか!潜伏期間は色んなものを潜伏させてますね(笑)
SHU Zさんの動物的な動きは守屋さんの演出ですか?
SHU Zの動きは、自分が行った演出をはるかに抜け出ていました。彼の特性のようです(笑)
──あの巨大なパイプもインパクトあります。パイプの円形と、ブロックの立方体が絵になっています。
茅ケ崎の海岸は時々ああいった謎の物体が流れ着きます。
あの巨大なダクトホース?も前日に撮影場所を探しているときに見つけました。訳の分からないものを撮りたいと考えていたので、見つけた瞬間に使いたい!と思いました。
──そして最後のレコードをかかげる海岸シーンがドラマチックです。どんな演出をしたのでしょうか?
「眠らないで日が昇ったあとも遊んでいて、体はついてこないけど頭はまだ遊びたいみたいなイメージで!」と言った記憶があります。思い通りにはいかないけど気持ちは走っているような。
──目立つ事なく潜伏していたという2人のファーストアルバムがようやく陽の目を浴びる象徴のようで感動しました。
頑張っている潜伏期間の2人を応援してあげて欲しいです。
──潜伏期間とはどのような付き合いでしょうか?
SHU Zとは中学の同級生です。ただ、あまり遊んだりはしていなかったです。
きっかけは大学生くらいの頃、DJ RYOICHIという友人がSHU Zとのイベントのフライヤーデザインを私に頼んできました。それがきっかけだったと思います。
3人でフライヤーのデザインを考えたり、Garagebandで作ったトラックにSHU Zと二人でラップを乗せて遊んだりしていました。
co∞と初めて会ったのは、今はなくなってしまった辻堂の Gonzui という場所だった気がします。いつもSHU Zと同じイベントに出ていて、不思議なラップをする人だと思っていました。
潜伏期間『街を流す』は、私が撮った最初のMVです。
「自分を撮ってくれ!」というエネルギー玉のような人を撮りたい
──もう少し映像ディレクター 守屋さんの事を教えて下さい。MV以外にどんな映像を撮られていますか?
今まではCMや映画などのVFXを仕事として行ってきました。
──曲を聴いて映像が浮かぶものなのでしょうか?それとも現場で感性のままに撮るのでしょうか?
曲を聞いて映像は思い浮かぶのですが、いざ撮影すると良い方向にも悪い方向にも全然違うものになります。
事前にどこまで固めてやればいいのか手探りな状態です。私に経験値があまりないのが原因かもしれません。撮影に協力してくれた方々にはかなり迷惑をかけてしまっています!
とりあえず撮ってみよう!撮ってみないとわからない!
という勢いに潜伏期間と周囲の方々が協力してくれたからこそ撮れたのだと思います。
──今後の活動予定や、撮ってみたい映像があれば教えて下さい。
今後は3/24~4/7に埼玉県の幸手市で「幸手アートさんぽ」というイベントに参加します。
芸術と向き合っている方々と接していると、
どんな生き方をしても大丈夫そうだ・・・ん?そうなのか?
と少し視野が広くなった気がします。
昔医院だった建物や金物屋さんの蔵の中でアニメーションや実写映像を展示します。
──最後にメッセージがあればお願いします。
MVを撮られているミュージシャンやスタッフに伝えたいのですが、あの監督ひとりでパニくってるけど平気なのか?と思っても、とりあえず信じて優しい目で見守ってあげてください。
あと、「自分を撮ってくれ!」というエネルギー玉のような人がいたらぜひ撮りたいです!
演じたい人であればショートフィルムでもいいですし、工場のおじさんであれば仕事している風景でもいいですし。なんでも撮りたいです!
説得されるか、人間性にひかれるか、お金を積まれれば飛んでいきます!(笑)
──ありがとうございました。
⬇︎守屋氏が奥さんと運営するHP。手がけた映像作品やCM、キャラクターなどが閲覧できる。
終わりに
潜伏期間SHU Zさんから守屋さんへのコメントでこの記事を締めたいと思います。
同級生だったというだけあって遠慮がなく、それでいて愛があって、リスペクトがあります。とにかくこの間柄が最高です!
どうですか?
潜伏期間と『眠らない』MVが愛おしくてたまらなくなったでしょ?
□ 潜伏期間SHU Zからのコメント
(守屋は)見た目は普通なんです。
職質とか絶対されないタイプ!(笑)
服装とかも主張がない感じで←disじゃないですよ(笑)
クラブにいると浮いてます(笑)そしてとても心が広いです。
例えば自分が守屋氏のカメラ壊してしまっても、多分キレないですね。
一緒に「あ゛ぁあああ」って叫んで、5分後には気持ちを持ち直してると思います。もっと一緒に作品作りたいです!!
めちゃくちゃ信頼してます。
⬇︎『眠らない』『街を流す』が収録されたアルバム
画像をクリックするとAmazonストアに飛べ、試聴もできる。
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