筆者は、このブログを書くためにHIPHOPの新譜を毎日チェックしています。YouTubeには1日5曲ほど、多い時には10曲以上も新しいMVが公開されています。そんな中で、異彩をはなった曲に足を止めました。
それが東京の若手クルー・夜猫族の曲たっだのです。
HIPHOPをベースとしながらも、連想したのは昭和の歌謡曲。
それも、
カルメン・マキ『時には母のない子のように』
藤圭子「圭子の花は夜ひらく」
中島みゆき「世情」
などブルージーな悲しみを背負った、冷んやりした質感の曲たちでした。
まばゆい太陽の下では気づかない。でも、あたりが暗くなると怪しげに光る発光体。そんな雰囲気に手招きされるように彼らの音楽にひかれていきました。
2018年2月に立ち上がったsoundcloudのアカウントには、すでに58曲もオリジナル曲が並んでいます。寺山修司や、ロシアの実験映画に通じるアングラな世界観だけでなく、Trap、なごみ系、はたまた宮沢賢治の童話まで表現の幅が広がっています。
それでいて彼らにしか出せないオリジナリティは輝きを増すばかりです。
今回は、夜猫族の中心人物 noma のインタビューと、代表的な8曲を紹介します。まずはnomaのフリーEPからの1曲聴いてもらいましょう。百聞は一見にしかず。下のインパクトあるジャケットから、独特の世界観が伝わるはずです。そしてプレイボタンを押せば、今まで知らなかった世界に魅せられるでしょう。
夜猫族の世界をそっとのぞいてみて下さい。
|noma / しゃぼん玉の中で|
(Prod. by FFFFFF)
「シャボン玉の中 煙が隠すよ」
絵本のような世界観。いつ壊れてもおかしくないシャボン玉。不安定さを知りつつ、その中でロマンチックに浮かぶ主人公。突如シャボン玉が割れ、一気に現実に引き戻される。映像がうかぶ4分間のストーリー。
※ 歌詞=リリック、サビ=HOOK とHIPHOP用語で表記しています。
※ 本文で赤字のついたアーティスト名は、Twitterとリンクしています。
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|noma インタビュー|
photo by イズミ
ーー夜猫族のメンバーを教えて下さい。
noma(ラップ、ボーカル、エンジニアリング )
FFFFFF (ビートメイク )
Ponds Swamps (ラップ )
Dorio (ラップ、ボーカル )
XakiMichele (ラップ )
tip jam (ラップ、ボーカル )
AJAH (ボーカル、ラップ、ビートメイク )
Young RICK (ラップ )
が主に活動しています。
メンバーとか所属とかそういう括りはなく、気の合う音楽家達が気ままに集まって各々の感性を自由に表現共有する場だと思っています。
ーーどのような経緯で結成されたのですか?
自分の家に宅録の環境が整って、最初はbabeというラッパーとPonds Swampsと僕で一緒に色んな曲を録っていました。その後Dorioが加わり「このメンバーだと凄いペースで曲が作れるな」ということに気づき、自分らの集まりに夜猫族という名前をつけました。
ーーHIPHOPでありながらストーリーテリングの要素があったりと独自の輝きを放っています。 どのようなものに影響を受けたのでしょうか?
曲によって意識しているものが違ったり、各々メンバーが多様なものから影響を受けているので一様には表しきれません…
僕個人だと最近特に意識してるものは、例えば70年代〜80年代あたりの歌謡曲だったり、10年代の海外のインディーロックやドリームポップですね。最近のネオソウルも凄く好きです。
そういう音楽とヒップホップを融合できたらいいなと思ってます。
あとは80’sのニューウェイブの辺りとか、その後の90’s〜00’sのオルタナとかガレージロックとかも好きです。挙げきれないほど色んなものに影響を受けています。まだそういうルーツを表現できてないので環境が整ったらもっと自由で先鋭的な音楽をやろうと思っています。
ーー歌謡曲というのは面白いですね。AJAHさんも浅川マキさんからの影響を口にしてましたし。 影響を受けた歌謡曲は何ですか?
あまり詳しくはないのですが、特に挙げるとすれば尾崎紀世彦とか河島英五が好きですね。あの時代の歌謡曲は歌詞のクオリティがとても高いので、広く浅く聞いて色々な要素を吸収しています!
ーー夜猫族からは強烈なオリジナリティを感じます。意識していますか?
オリジナリティはアートにおいて最も重要です。
これは僕個人の価値観ですが、同じものは存在する必要がないので「既存のものと何が違うのか」ということを常に考えなければなりません。
まあ、メンバーそれぞれが個性的なので、わざわざ独創性なんて考えなくても自然に表現すればよかったりするんですけどね。
特に歌詞は、陳腐な言い回しを使わないように意識しています。
ーー最近はTrap系のサウンドもアップされています。サウンド面での今後の方向性はありますか?
基本的に各々の好きな音楽をやっていて、これからも色んな楽曲を発表していくと思います。Trapもやるしクラシックもやるし。
僕なんかは前述した通りバンドミュージックに影響を受けているので、いつになるかはわからないのですがそういう音楽もやりたいです。
最近進めているプロジェクトは、Dorioとtip jamと僕でチルでモダンなサウンドを集めたコンピレーションEPを作っています。来年の頭には出せそうですね。とても洗練されたクオリティ高い楽曲に仕上がっているので期待していて欲しいです。
ーー2019年のクルーとしての活動はどのような予定でしょうか?
クルーとしての活動はあまり意識していません。夜猫族自体クルーだとは僕自身あまり考えていなくて、それぞれ好きなところで好きなことを好きなようにやっていって貰いたいです。特にXakiMicheleとかAJAHとか、これからすごいことになるっぽいですよ。
|noma / Star. Game. Dream|
「今日も眠い目をこすって 夢を見るしかない」
超脱力系ラップにモタつくビートがクセになる。「僕はここにいるようでいない」と夢と現実の続きを見せてくれてる。ため息で飛ばされるタンポポの綿毛のような、浮遊感ならぬ夢遊感がいい。
▫️プロフィール
福島県出身、東京都在住。 中学1年生の頃にhip hopに出会う。 夜猫族にて楽曲を発表し、東京を拠点に本格的に音楽活動をスタート。 jazzやchill系hiphopなどからの影響が強く、自身のスタイルに繋がっている。 現在は楽曲制作とライブ活動をメインとし、アートワーク(pv.ジャケット.フライヤー)などを含めフリーランスでのデザイン業も行なっている。
|tip jam / Rin Rin|
(Prod. Pri2m)
「風鈴をしまって鈴虫の鳴く声 鈴凛」
季節は夏から秋へ。夏には無情なほど止んでいた風が、再び吹きだしたことで秋を表現。変化に目が行きがちだけど、夏の終焉も描くことで季節の新しさを伝える。ポツリポツリと語りかけるラップは初期の5LACKを彷彿とさせる。
“鈴凛(りんりん)” “秋隣(あきとなり)” など文字からもイメージが拡がるので、耳で感じた後はYouTubeの概要欄にあるリリックを追いながら再び聴いて欲しい。
⬇︎この記事では『Rin Rin』の元ネタも紹介している。
秋の夜長にしみ入るMVを7曲選びました。しっとりとあなたの心の隙間を埋めてくれる曲ばかりです。…
|tip jam x noma / wind|
「南から吹く風が君の髪をなびかす」
飛行機雲は一直線で力強く見えるのに、形づくられた瞬間から輪郭がぼやけ、気づけば消えていく。 そんな心当てない気持ちが気だるく表現された曲。 夢と現実の中間点。詩的さに想像がかき立てられる。
◽️プロフィール
福島県出身。 2018年から夜猫族のメンバーとして音楽活動を開始。 独特な声とビートアプローチが武器であり、他に類を見ない独自のスタイルは国内に留まらず、海外からの評価も得ている。 Sound Cloudにて公開した「Pussy Lake feat AJAH」が評判を呼び、クルーとしてだけでなくソロとしての活動へも期待が高まる。 現在は東京を拠点に活動しており、来年には自身のEPのリリースを予定している。
◽️プロフィール
福島県いわき市出身。ピアノでの弾き語りやバンド活動を経て今のスタイルを確立。2017年、すべての楽曲を自主製作したFirstDemoEP「Ecdysis」を公開。シンガーだけでなくトラックメイカー・Funkid95tecnicsとして本格的に活動を開始。2018年より夜猫族に加入し、都内を中心に活動中。2019年にはEPのリリース・MVの公開を予定。次世代を担うシンガー最重要注目株として期待が高まる。
|XakiMichele / Pussy Lake feat. AJAH|
https://soundcloud.com/yorunekozoku/xakimichele-pussy-lake-feat-ajah
「3回に1回くらいあった方がいいんでしょ おあずけ」
頭を錯乱させるTrap。低音のまま言葉を途切れさせず走り抜けるXakiMichele。ため息を含んだ憂いある歌/ラップのAJAHは、浅川マキを彷彿とさせる。インド音楽的な節回しもあり。客が絶叫するのも頷ける。
⬇︎『Pussy Lake』のライブ動画
https://twitter.com/XakiMichele/status/1052240254114000896
|TRASH ODE / Deoxi ( Feat. XakiMichele、AJAH ) |
「ドナルド トランプ にガン飛ばす」
MCバトルでは”Ono-D“としても活躍するTRASH ODEが、夜猫族の2人を客演に迎えた曲。グライムの突進力を兼ねそなえたTrapは、掘削機のごとく地下を掘り進む。低音を活かした3人のラップ。中でもAJAHの歌うメロディがアクセントになり妖しい光彩を放つ。
◽️プロフィール
福島県出身。17歳でfreestyleを始め、18歳から音源作曲を開始。児童の頃から歌うことが好きで、楽しさと感謝を忘れずに音楽と向き合う。19歳の秋頃に夜猫族に所属し、横浜に上京して2年が経過。HIPHOPだけでなくフォーキーなサウンドも得意とする。目標は夜猫族の才能を超えること。
|Dorio / Heartz |
(Prod. by FFFFFF)
「究極中毒独走」
かけ離れた物を組み合わせるとイノベーションが生まれやすい。
「地球儀の周波数」などどういう発想で組み合わせたか分からないフレーズの連続。それでいて聴き心地がいい万華鏡のようなサウンド 。無理に意味を理解しようとせず、摩訶不思議なままでいい。
|Dorio / After A Few Secomds|
「頭の中で考えていることを全て知ろうとする人々」
音響を活かしたアシッドでフォーキーなトラック。Dri0が得意とする早口なラップは、途切れ途切れになった遠い記憶のすき間を埋めてくれる。懐かしさと新しさが併走するサウンドは、キセルやThe fin.を彷彿とさせる。
終わりに
夜猫族の世界を体験していただけたでしょうか?
まだ公表できないことも含め、私のきいている限り2019年はHIPHOP界をにぎわす存在になりそうです。さらに聴きたい人はsoundcloudにある彼らのアカウントをフォローして下さい。続々と作品が発表されていますよ。