アスリートのように自らを追い込む ラッパーMiracle インタビュー

作品を聴くと、雨の中で1人、シャドーボクシングをしている姿を思い浮かべてしまう。自らを崖っぷちまで追い込んで、追い込んで。時には崖から落ちてしまっても這い上がる姿をステージで見せる。傷だらけでも泥だらけでも前に進むことをやめない。

 

それが京都のラッパー Miracle だ。

 

決して恵まれた声でも、天性のリズム感を持ち合わせている訳ではない。

 

彼が無名だった頃、ステージに立つとフロアーから客がまばらに散っていった。HIPHOPは実力がモノを言う世界。それは承知の上で必死に歌い続けた。客の心を刈り取る、そんな野心に燃えていた。その姿に気を止めた客が1人また1人と戻ってきて、気がつけばフロアーを揺らしていた。

 

畳み掛けるライミングと、ストレートなリリックが特徴で、雑巾を絞るように喉から言葉を絞り出す。絞って何も出なくなっても、擦り切れても声を張り上げる。そんなひたむきさに心を打たれる。

 

不器用にしか生きれない自分と思いを重ね、一歩ずつ、でも確実に成長している姿に応援したくなる。

 

 

そんなMiracleが、同郷のBeatMaker / Producerである BoNTCH SWINGA とのダブルネイムで、2019年11月24日に1st アルバム『The Lost World』をリリースした。

 

HIPHOPと向き合い、自らを追求するストイックさの裏には、追い詰められた環境があった。今からお届けするMiracleのインタビューを手掛かりに、このアルバムを深く味わって欲しい。

 


 

 


1stアルバム『The Lost World

01.beginning
02.turn on the ignition
03.dead or alive
04.DHLLB?
05.classic
06.ARIA
07.kyozou
08.footsteps
09.dance feat (炉馬.TERU)
10.Boring sound
11.THRASHER
12.A complete farce
13.Four Elementz feat (EAGLEYE.炉馬.T-STONE)
14.moon
15.suzumushi
16.Thank you

 

⬇︎1st アルバム『The Lost World』 配信リンク

 


Miracle インタビュー

 

── HIPHOPを始めたきっかけは何ですか?

 

先輩がサイファーをしてて、「クラブに遊びにきいや」と言ってもらったのがきっかけです。京都のCLUB GRiNDっていう箱で、最初はMCバトルがカッコいいってなって。そっから色んなクラブに遊びに行くようになり、自分もライブするようになりました。

 

── アルバム『The Lost World』を聴くと、強烈なストイックさを感じます。今のラップスタイルに、どのようにして行き着いたのでしょうか?

 

ストイックさが出たのは、BoNTCH SWINGAさんと一緒に作品を作ってからですね。曲作りのスピードも大事やし、リリースのスパンを開けずにどれだけ良いものを出し続けられるのか。今そういうものが求められてると思うので、ずっと追い込んでいこうって話してます。

 

ビートのストックがもう軽く20曲ぐらいあるので、俺はリリックを書くしかないっていう状況で生まれた作品です。

|kyozou(アルバム『The Lost World』7曲目に収録)|

 

── リリックの中で「アーティストは歌詞を書けなきゃ死んだも同然」とか「ひたすら歌詞を書き」など、自ら逃げ道を塞いでるように感じました。

 

そうですね。確かに自分宛のリリックが多い気がします。弱い部分とか全然出すんですけど、このままじゃあかん、変わらなあかんと。あとラッパーとしてリリック書かへんと発言権がない。言いたい事なくなったら終わりやし、どんどんペン先は進めて行かんと。

 

── リリックはどれぐらいのスピードで書くのですか?

 

遅い時もあるし、パッとかける時もあるし、2パターンですねでも。以前は4小節書いて寝かして温めてっていう作り方をしてたんですけど、最近は1日でスッと書けることが多くなりました。

 

── アルバムでは、ロック調の曲もあれば、インド舞踊、ブルガリ歌唱など様々なサンプリングを行い、一筋縄では行かないブレイクビーツですよね。BoNTCH SWINGAさんとはどのように出会ったのですか?


BoNTCH SWINGAさんは、BONG BROSのメンバーで、ストロベリーパンティースというHIPHOP BANDをやってたりする人です。YAMATO + BoNTCH SWINGA 名義の作品があるんですよ。それに無茶苦茶クラってて。BoNTCH SWINGAさんのビートにずっと憧れてて、直接会った時に自分の作品を渡しました。

 

── それは緊張しますね。反応はいかがでしたか?

 

後日「一緒にやろや」と連絡が来て、自分用のビートを作ってもらいました。もう嬉しくて、直ぐに筆が進みました。そこから共同で楽曲を制作しています。

 

色々なビートを作れる人で、アルバムの中に同じようなビートはひとつもないでしょ。ほんまに凄い人です。これからも“ Miracle + BoNTCH SWINGA” でやりたいですね。

 

 

⬇︎BoNTCH SWINGAの音源はこちらのサイトで聴くことができる

SoundCloud

Producer/Beat Maker/Sound Creator Kotobuki Record…

 

 

── 私は「Dead or Alive」のつんのめったビートが好きです。その「Dead or Alive」では、前作の『神風』とは違い、強さを保ちつつ、ささやくようなラップをされています。何か心境の変化があったのでしょうか?

 

心境の変化というより、梅井 泰成というキックボクシングをやっている友達について書いた曲です。あの曲では、自分のことは1ミリも書いてなくて、あいつがどういう心境で戦っているかを聞いたり想像して書きました。そういうのも1回やってみたいなと思って。

 

── とはいえMiracleさんにしか出てこないリリックだと思います。アスリートって自分の肉体を極限まで追い込むじゃないですか。そんな姿勢が、Miracleさんと重なりました。音楽以外の分野で共感できる人っていますか?

 

政治家の山本太郎さんですね。CDでは17曲目にシークレットトラックがあって、山本太郎さんの演説にビートをのせて曲にしたものがあります。そこで喋っている内容にHIPHOPを感じましたね。

 

── 自分を追い込むという事でいうと、曲が未完成な状態でも、ライブで披露しています。失敗しても、そのスピリットがいいなと思いました。

 

ああやってましたよね。なんでやろ(笑)。毎度1番新しい曲が自分の中で1番ヤバいっていうのがあるんで 。1Verse、1HOOKしかできてなくても歌いたくなってしまうんですよね。

 

── ライブでは未完成でも、この曲が完成したらどうなるんだろうという期待が高まります。常にリスナーの一歩先一歩先をいってる感じがします。

 

いまEP出して、アルバムも出してMiracle & BoNTCH SWINGAがどういうラップをするかって知ってもらえてると思うんですね 。そっからどう印象変えていけるかっていうのは大事だと思うし、違うことにも挑戦したいですね 。

 

そんな挑戦しながら、バチッと決まった姿を見せれたらカッコいいじゃないですか。そういう感じで行きたいですね、ずっと。

 

 

── アルバムと言っていいボリュームのEP「神風」を5月1日にリリースし、その直後のライブで「秋にはアルバムを出す」と言っていて驚きました。

 

最初2nd EPの予定だったんですけど、気がついたら9曲ぐらいできてて。SKITを入れたら11曲になるしEPサイズじゃない。じゃあ、フルアルバム作ろうって決めたのが10月ぐらいです。

 

11月23日にはオーガナイザーの 田中角栄 がリリースパーティーを打ってくれてたので、それまでにはCD盤を出さないといけない状況で。「ヤバイ。あと6曲書かなあかん」って。

 

後半に書いた曲は、1日で書き上げた曲ばかりです。追い込んで追い込んで。「Thank you」も「suzumushi」も「classic」「ARIA」もその時期にできた曲ですね。

 

|Thank you(アルバム『The Lost World』16曲目に収録)|

ほんまにギリギリで。あと一歩遅れたらCD盤がない状態でのリリースライブとなっていました。

 

── リリースパーティでのライブMCで、「名古屋でのライブが悔しかった」と話されていました。その時のエピソードを教えてもらえますか?

 

名古屋の時に、いつもの感じで新曲をバンバンぶち込んで歌ったろと思ったんです。けどリリックをめちゃくちゃ飛ばしてしまって。“やばい、やってもうた”ってなって。

 

噛ませなかったわけじゃないんですよ。100点満点で言ったら50点やけど、盛り上がりもあったし。でも、もっと行きたかったな、完璧に決めたかったなって落ちた時に、Draw4にお酒をおごってもらいました。またDraw4がLIVEをめちゃくちゃ嚙ましてて。その酒が余計に悔しくて 。

 

そして次の週が大阪でリリースライブだったんです。歌うのは新曲ばっかりやったから、不安とストレスで追い込まれてて。

 

── ライブMCで、「神風を出してからフルアルバム出すまでがしんどくてしんどくて」とも言ってました。

 

そんな状態だったので、ほんましんどかったと思うんですよ。だから口から出たと思います。

 

実は2週間前まで作品ができてない状態だったんです。レコーディング全部終わったのが11月10日だったので、ほんまにギリギリで。あと一歩遅れたらCD盤がない状態でのリリースライブとなっていました。

 

── でも、その日のライブはすごく良かったです!何度かMiracleさんのライブを拝見しているのですが、鬼気迫るものがありました。それを感じてたのは私だけじゃなくて、ライブ後のTwitterには「Miracleがヤバかった!」っていうツイートが多かったです。

 

 

4人の合同リリースパーティーでしたけど、知名度は TERU とかDraw4とか T-STONE に比べたら劣っているし、彼らの力を借りてるところが多いので、その中で噛ませたのは嬉しかったですね 。

 

── 気迫がリリックを追い越したように感じました。

 

あの日ライブで決めれなかったら当分はライブのブッキングを断ろうと思って挑んだんです。MC としてもココで決めれへんかったらあかんなって。あの日は自分の中でも特別でしたね。

 

── アルバムをリリースしてから関西以外でもライブをされています。反響はいかがですか?

 

地方に行く時には無名の状態で行きます。そこにいる人の心を掴まないといけないので、一体感とか盛り上がる瞬間を作れるように心掛けています。「ヤバかったです」って言ってくれるリスナーは少なからずいるので、そういう人を増やしたいですね。

 


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── MVになった「Four Elementz feat. EAGLEYE . 炉馬 . T-STONE」について伺います。それぞれ出身地が違う中で、なぜこの3人を客演に選ばれたのですか?

ライブを見て普通にカッコいいと思った人たちで、全員色が違うかなと思って。マイクリレーのような感じで作りたかったので、自分のスタイルとは違う人を選びました。

 

|Four Elementz(アルバム『The Lost World』13曲目に収録)|

 

── お互いの持ち味が引き出されていましたね 。

 

みんな嚙ましてるし、人選は間違ってなかったなと思います。

 

── 炉馬さんは、EP「神風」に続いてフィーチャーされています。

 

仲がいいんですよね。梅小路サイファーの時から一緒やってラップも上手いし、入ってほしいなと思って 。

 

── 「Jungle」ではミラクルさんが早口なラップを披露しているんですけど、炉馬さんのラップがさらに輪をかけて早いという。

 

|Jungle(EP『神風』6曲目に収録)|

 

あの曲は「神風」の中で一番挑戦してる曲だと思うんですよ。でも 、めっちゃ難しい曲で、ありえへんぐらい変則なビートで 。もう鬼畜ですよ。

 

── ラッパーでも、あのビートでラップしようとする人は少ないでしょうね。それを乗りこなそうとチャレンジするのがMiracleさんらしい。あと重いロックのギターリフ曲が多いですね。

 

それは BoNTCH SWINGAさんの好みだと思います。アルバムでは「beginning」とか「THRASHER」とかですね。僕もいかついギターは好きです。

 

── それとは対照的に、「suzumushi」は特にリリックが滲みますね。「胡座なんてかいてない 努力しても味気ない 」というラインは、普段から努力していないと出てこない言葉だと思います。

 

|suzumushi(アルバム『The Lost World』15曲目に収録)|

 

昔から野球をやっていて 感じたことなんですけど、努力して報われないってことは結構あると思うんですよ。頑張るって簡単なことじゃないと思って。

 

かなり追い込まれた状況だったので、なんでこのリリックが出てきたか覚えてないです。でも僕の中で、かなり繊細な感情を書きました。リリック的にはこの曲がズバ抜けて好きですね。

 

── 最後は、「理解してもらうことは諦めた」という言葉で締められていて心に残ります。

 

追い込まれつつ感傷に浸っていたりとか、様々な感情を表現できたと思います。「いつか花嫁に投げさせてあげたいなブーケ」というラインがあって、今の俺にはそんな事あるかっていうマイナスの気持ちで書いたんです。でもエモくとらえた人もいて、色んな解釈ができるっていうのは表現としていいと思いますね。

 

── 2020年はどんな動きになりそうですか?

 

今年はバトルにも積極的に参加します。作品も今まで通りバンバン作って、MVもあげて、2019年よりも大きな動きをしたいです。

 

── もうすでに次の制作に入られているのですか?

 

はい、作っています。それはもう常にですね 。

 

 

── リスナーの求めるさらに先を行くというのはプレッシャーではないですか?

 

前作を超えないと意味ないと思っています。一発バンとヤバいのを出したいのは山々なんですけど、そういうタイプではないので右肩上がりで成長しているのを見せたいですね。

 

── 期待しています。ありがとうございました。

 

 

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