日本語を高みに上げるBoomBap 名古屋のラッパーK.M インタビュー

 

猛烈な勢いでこちらに走ってくる暴れ馬のようなトラックを、こんなリリックで乗りこなすラッパーがいる。

 

胡散臭いの遠ざけてindependence
ABBrecords Sampling 俺らのemblem ヤバイの限定
compliance無視 不健全
上塗り過去のSentence 伸ばし続ける生命線
俺とお前なら兎と亀 ばら撒き続ける火種Hoodで塞ぎ込まねぇ
闇で空回りちっぽけとDance 俺はヨレテルStupid尻目白線を跨ぐ

‘今’を覆す一手 掻っ攫う Respect Against the system
気づけ不変の価値を提示 もう誰も俺を無視出来ない
横一線余裕の置き去りの3rdstage 季節の変わり目告げるbigstorm
やわなbildingならdirtroy一文無しあのRichboy

破壊と再生 ひたすらMaintain このShitでまた一つ壁を越える

This is death dance…

 

 

これは、名古屋を拠点に活動するラッパー  K.M による2年半ぶりの3rdアルバム『EN ROUTE』に収録された「Death Dance」の一節だ。

 

リリックを見ただけでも、言葉の持つ熱量に圧倒されるに違いない。手数多く繰り出される言葉は、語調は荒くないのに語感で感じる硬さと強さがある。K.Mは言葉を鍛えることで闘うことを選んだファイターのようだ。流行りのオートチューンを一切使っていない、丸腰の日本語が塊となって聴こえてくる。特に母音が連なって鼓膜を揺らすのが心地いい。

 

アルバムは、「チリチリチリ」 とアナログレコードに針を落としたノイズで幕をあける。クセのあるザラついた音で、ギラついた目をした黒人がドープに訴えかけてくる。そんなサンプリングが主体だった時期のU.SアンダーグランドHIPHOPを現在に受け継いだ作品だ。そこにはSOULクラシックやJAZZ、ゴスペルといったブラックミュージックのエッセンスがあり、ベースが太くて反骨精神ある仕上がりになっている。

 

トラックだけでなく、HOOKの組み方も90年代HIPHOPを彷彿させる楽曲たち。アルバムの中で何度も出てくる「BoomBap」という言葉。そして「時代に刃向かうフーリガン」「俺たちは泥臭く」と続く。

 

ブラックミュージックの意思を受け継ぎつつ、スキルを磨くことで日本語にしか出せない響きを高みにまで引き上げている。今からお届けするK.Mのインタビューを手掛かりに、このアルバムを更に深く味わって欲しい。

 

 

※ 歌詞=リリック、サビ=HOOK、ラップをしているパート=Verse とHIPHOP用語で表記しています。
※ 本文で赤字のついたアーティスト名は、Twitter、Instagramとリンクしています。

 


 

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3rdアルバム『EN ROUTE

 

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01. Here We Come [Pro. brian’BC’carter]
02. Get Ready [Pro. Mr.蓮]
03. Death Dance [Pro. brian’BC’carter]
04. Turn It Up feat. HANZO REIZA [Pro. brian’BC’carter]
05. Go Hard feat. TOSHI MAMUSHI [Pro. DIRTYDIGGS]
06. Addiction [Pro. brian’BC’carter]
07. What I Need feat. JERHELL [Pro. brian’BC’carter]
08. Authentic feat. FFL [Pro. 泰山北斗]
09. The Formula [Pro. Sugimori Takaaki]
10. Ray Of Sunshine [Pro. DJ ROOPE]
11. Break [Pro. DIRTYDIGGS]
12. Never Will [Pro. DIRTYDIGGS]
13. Home Town [Pro. Mr.蓮]
14. Underdog Show [Pro. brian’BC’carter]
15. Dedicate [Pro. DIRTYDIGGS]
16. Higher feat. DUSTY-I [Pro. brian’BC’carter]
17. The Purpose Of Life [Pro. brian’BC’carter]

 

 

発売日:2019-11-13

 

 


K.M インタビュー

 

── リリックの中に流行のサウンドへの苛立ちが見られます。BoomBapにこだわった理由はありますか?

 

苛立ちというよりは、流行りのサウンドに対して似たようなアプローチしてる作品がつまんないってだけです。 最近の音楽も全然checkしてますよ。今までくらった作品がBoomBapが多いから、自然にそういったものを選ぶようになりましたね。 カッコよければTrapでも全然やってみたいと思ってます。

 

── どのようなHIPHOPに影響を受けたのでしょうか?

 

僕がHIPHOPを聴き出したのが確か高1.2の時。結構深いとこ聴いてるツレが多くてその時は周りではMSCやNITROが流行ってましたね。本格的にDiggをはじめたのは大学時代で、Rapをなんとなくやり出したタイミングでビートメーカー brian’BC’carter (以下 BC)と出逢いました。

 

── BCさんとはこの頃からの付き合いだったのですね。今作では「Death Dance」を含めて8曲プロデュースしています。

 

Death Dance(アルバム『EN ROUTE』3曲目に収録

 

 

BCとは、よくバナナレコードというレコ屋に行ってました。僕なんか歯が立たないくらい詳しくて。確かあいつが最初に薦めてきたのが Boot Camp Click とかの Duck Down Music Inc. 周りと Company FlowDEF JUX (DEFINITIVE JUX) 周りでしたね!

 

BCとは昔Crewをやっていて、最初はレコードのインスト使ってたんです。それでArtistをかなり覚えたと思います。一番最初に使ったレコードが確か Dilated Peoples「Live On Stage」でしたね。誰に影響受けたって言われると絞れないけど、おそらくあいつに教えてもらったHIPHOPが僕の影響受けたものですね。

 

── M-③「Death Dance 」とM-⑤「Go Hard」のリリックを拝見したのですが、文字の情報量の多さと、精魂の込め具合に圧倒されました。あれだけのリリックを書くのに、どれぐらい時間をかけているのでしょうか?

 

かかる時間は曲によってバラバラです。 テーマに入り込めれて歌い出しさえ決まれば、案外時間かけずに書いちゃいますね。 一回スイッチが入ると運転中とか仕事中とか場所問わずずっと考えてます。完成するまで止まらなくなります。

 

── 止まらない感じが曲に勢いを与えています。

 

「Go Hard」に関していえばBeatがかなり難易度高くて苦労しました。 「Death Dance」より全然難しかった(笑)それに客演がずっとやりたかったTOSHI君だったんで。負けたくなかったし、結構時間かかりましたね(笑)お陰でかなり良い曲に仕上がりました。

 

Go Hard(アルバム『EN ROUTE』5曲目に収録

 

── アルバムに参加されている DUSTY-I さんは、K.Mさんの制作の速さとリリックの引き出し多さに驚かれていました。

 

出来るだけテーマや言い回し、言葉一つとっても一回使ったものを使いたいなくて。そうやって制限された中でリリックを練ってくうちに、引き出しはどんどん広がっていきました。

 

── K.Mさんにあれだけの量のリリックを書かせる原動力は何ですか?

 

とにかくもっと良い曲が作りたいってそれだけですね。

 

── JERHELLやビートメーカーDIRTYDIGGSといった海外のアーティストと共演されています。どういった繋がりでしょうか?

 

JERHELL との出会いはヤバくって。家の近所に昔、世界回るサーファーだったおばちゃんがいたんですよ。センス抜群でイケイケで。その人が海外のRapperとやたら知り合いが多くて紹介してもらったんです。「K.Mこいつカッコいいから一緒に曲やりなよ」って(笑)

 

── そのおばちゃんが気になって仕方がない (笑)

 

試しにやってみるかって作ったM-⑦「What I Need」がカッコよくて、そのままアルバムに入れました。

 

── そんなノリで海外のラッパーと曲ができるのですね。

 

DIRTYDIGGS は、自分がずっと聴いてたビートメーカーです。Planet Asiaのアルバム『Black Belt Theater』で存在を知りました。今回アルバムを作るにあたって絶対アプローチしようって決めてました。

 

※後ほどK.Mよりアルバム紹介があり

 

自分の2nd『Firm Conclusion』を送りつけて片言の英語で熱意を伝えましたね。まさか実現するなんて思わなかったです。 今作では4曲Beatを提供してくれてて、かなり良い味出してると思います。

 

ノリだけで、リスナーに何も残らないアルバムで終わらせたくなかった。

 

── M-⑬「Home Town」から M-⑭「Underdog Show」では、自分のルーツを掘り下げる内容になっていますね。 これらの曲は、自分のスタイルが確立したからこそ書けたと感じました。

 

「Home Town」では、自分の産まれた故郷について唄ってます。音楽を始めたのが名古屋に来てからで、変わってしまった自分から見た地元の景色を曲にしてます。

 

「Underdog Show」では、音楽(夢)ってものをネガティブな視点で、一種の業として唄ってます。蛙の子は蛙で、同じ道を辿ってる葛藤を曲にしてます。これらの曲はずっと歌いたいテーマではありましたね。でもさらけ出すのに勇気が入りました。

 

この2曲を入れたのは、ノリだけで、リスナーに何も残らないアルバムで終わらせたくなかったってのが一つ。あとはこれからのキャリア考えた時に、このボリュームのアルバムが今後作れるかなって思ってた時期で。残せるうちに残しておこうって思ったからです。

 

── この流れがあるからM-⑮「Dedicate」で徐々に世界が色づき始め、 M-⑯「higher」で一気に陽が射すような高揚感が活きてきます。

 

「Dedicate」「Higher」では自分のネガティブな感情や葛藤などを突き抜けて音楽と向き合う事の歓喜を曲にしてます。 「Higher」には客演でDUSTY-Iを迎えてるんですが、毎回僕のALBUMに参加してもらってます。

 

DUSTY-IのSTYLEは個人的にめちゃくちゃ好きですね。「明日に見る空今日吹く風」 って曲があって車で良く聴くんですけど普通に泣きますね。(笑)  今お世話になってるエンジニア(Do-1t.)と出会えたのも彼のお陰だし感謝してます。

 

── ラストナンバーの「The Purpose Of Life」では、この先も道が続いていて歩むことをやめないという曲で終わります。今後の予定を教えて下さい。

 

沢山の場所でリリースライブ呼んでもらえてるんで、このALBUMをひっさげて各地でしっかり足跡残そう思ってます。ライブに来て欲しいですね。今後の動きは色々あるんですが、DIRTYDIGGSとは今でもやりとりは続いてて、今作が落ち着いたら“K.M × DIRTYDIGGS”名義でEPを出そうって話になっています。

 

動きは止めないのでCheckし続けて欲しいですね。

 

── 今回のALBUMとまたテイストが変わりそうで楽しみです。ありがとうございました。

 


K.M おすすめの一枚

 

インタビューでも語っていたPlanet Asia『Black Belt Theater』を、K.Mが自ら解説してくれています。K.Mのアルバムを更に奥深く知りたい方は併せてチェックを!

 

 

(K.Mの解説)

そもそもPlanetAsiaを選択する事自体かなりマニアックだと思われるだろうな(笑) BCに笑われる気がします(笑)彼のアルバムは大体持ってますね。その中でも一番好きなのが『Black Belt Theater』かな。未だに聴きますね。客演陣、Producerどこをとっても素晴らしい。完全俺好みな面子です。

 

そんでDIRTYDIGGSを知ったのもこのアルバムです。20曲中10曲、彼のBeatなんですけどもうDIRTYDIGGSの特徴が全開っていうか。声ネタの綺麗な音にPlanetAsiaの男らしい声が完全ハマっててやられました。中でもM-②「Grown Folks Talkin Feat.TalibKweli」、M-③「Tell The World」が好きです。 もちろん他のOH NOがProduceしてる曲とかも凄く良い。 あとM-⑪「Bruce Lee」では「燃えよドラゴン」samplingしてて面白かったですね!

 


関連リンク

 

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